N 291226後藤博判決書 #ベタ打ち版 #渋谷辰二書記官 #細田良一弁護士
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平成29年12月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 成島千香子
平成29年(ネ)第3587号 損害賠償請求事件(原審 東京地方裁判所 平成27年(ワ)第36807号)
口頭弁論終結日 平成29年11月2日
判決
埼玉県越谷市
控訴人
東京都江戸川区北小岩
被控訴人 中根明子
訴訟代理人弁護士 細田良一
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、控訴人に対し、200万円を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、特別支援学校の教諭であった控訴人が、同人の担当していた生徒の母親である被控訴人が控訴人の人格権を侵害する不法行為を行ったことにより、苦痛を覚え、心身の不調を来したと主張して、被控訴人に対し、不法行為に元づき、慰謝料200万円及びこれに対する不法行為日の後(訴状送達の日の翌日)である平成28年1月24日から支払い済まで年5分の割合による遅延損害額の支払を求めた事案である。
2 原審は控訴人の請求を棄却し、控訴人が被控訴人に対し200万円の支払を求める限度で本件控訴を提起した。
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3 前提事実は、以下の通り補正するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の1記載の通りであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決2頁2行目の「前提事実は当事者間に争いがない。」を「当事者に争いのない事実及び後掲各証拠により容易に認めることができる事実」と改める。
(2) 原判決2頁6行目末尾の次に改行の上、以下を加える。
「(2) 葛飾特別支援学校は、高等部単独の知的障害特別支援学校であり、入学者は、通学区域内にある知的障害特別支援学校中学部の卒業生、中学校の特別支援学級の卒業生である(甲12=葛岡裕学校長の陳述書)。」
(3) 原判決2頁7行目の「(2)」を「(3)」と改める。
(4) 原判決2頁8行目末尾の次に「Nには重度の知的障害がり、東京都立墨田特別支援学校中学部を卒業し、葛飾特別支援学校に入学した。(甲2=入学相談の班別記録用紙、甲22=中学部指導要録の内中学部3年次分、乙1=中根明子陳述書)を加える。
(5) 原判決2頁10行目の「(3)」を「(4)」と改める。
(6) 原判決2頁11行目の「Nが」から原判決2頁12行目の末尾までを削る。
4 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 不法行為の成否(争点1)
(控訴人の主張)
被控訴人は、Nの入学前から度を超した要望行為を行う傾向があったところ、入学後、Nについて一人通学指導の開始を要望し、これが開始されないことに端を発し、校長や副校長(以下「管理等」という。)を通じて控訴人を支配することを意図して、管理職等に対し、控訴人の能力が低いと訴えるとともに、控訴人をNの指導から外し、通知表からも控訴人の名前を削除すること、控訴人の授業観察をし、研修結果を報告させること、Nのクラス又は葛飾特別支援学校から控訴人をいなくしてほしいこと等を面談、手紙、
後藤博判決書<3p>1行目から
電話等で繰り返し要求し、また、控訴人のクラスに予告なく現れて、控訴人の日常の学級指導の様子を監視し、控訴人と生徒等のやりとりを逐一管理職らに報告するなどし、控訴人と生徒らとの信頼関係を破壊した。これらの被控訴人の行為は、故意に控訴人の人格権を侵害するものであり、控訴人に対する不法行為に当たる。
被控訴人による不法行為の具体的な内容は、以下の通りである。
ア 被控訴人は、Nの入学前から、担任教諭との綿密なコミュニュケーションを強く望んでいたところ、入学初日から、控訴人に綿密なコミュニュケーションを望む趣旨の手紙を渡すなどした。
イ 葛飾特別支援学校で用いられていた連絡帳は、生徒が記入する書式となっており、保護者の記入欄がないものであったことから、控訴人の提案でNが中学部時代に使っていた連絡帳の書式を使うことにした。そうしたところ、被控訴人は、Nが中学部時代に使用していた連絡帳の書式を持参し、控訴人は、これに応じて、被控訴人から渡された書式をもとに連絡帳の書式をパソコンで作成した。
ウ 被控訴人は、平成24年4月、控訴人の机上に自己の推薦する図書を追記、教育の専門家である控訴人に対し、自分のやり方が記載された図書を読ませ、実行させようとした。
エ 被控訴人は、Nの水遊びや砂遊びについて、完全に止めさせることことが難しいにもかかわらず、これらを止めさせることを控訴人に対して要望した。
オ 被控訴人は、体育祭において、Nの参加する種目を変更するよう要望した。
カ 被控訴人は、、5月23日にNの朝の教室での様子を突然見に訪れ、24年6月5日、朝の学活時に担任教諭が不在で、Nの介助がされていないことについての不満を述べ、さらに6月19日、自ら朝の指導を行うと宣言して控訴人の指導を拒否し、朝の活動の時間帯に被控訴人がNに付き添うようになった。
後藤博判決書<4p>2行目から
キ 被控訴人は、連日、控訴人に対し、Nにハンカチを噛ませないようにしたいとの要望を伝えていたが、この要望について、自身が不意打ちで学校に来て、Nに注意する旨伝えてきたり、他の生徒に対し、Nにハンカチを噛まないように伝えてほしい旨要求したりするなど、手段を問わないやり方で要望を実現しようとした。
ク 被控訴人は、24年5月頃から、Nについて一人通学指導を開始するように繰り返し要望し、これに対し、控訴人や千葉教諭がマニュアルに照らして時期尚早である旨や学校側の体制が整っていない旨伝えたが、被控訴人が「学校に迷惑を掛けないように一人歩きの練習をしたい」というので、控訴人はそれについて認めることとした。
そうしたところ、24年6月6日、被控訴人は、管理職らからNの一人通学指導について指導計画書を作成するように指示され、一人通学指導の責任を負わされることとなった。また、被控訴人は、Nの一人通学指導に関し、控訴人に手紙を交付し、返事を書くように要求するなどした。
ケ 被控訴人は、Nの教室での座席について、控訴人から離れた席になるように席替えを要望した。
コ 被控訴人は、以上の通り、控訴人に対し様々な要望行為を繰り返していたが、前記クの一人通学指導に関する要望について、控訴人が応じなかったことを契機として、管理職等に対し、控訴人に対する不満を訴えるようになり、24年7月2日以降、管理職らに対し、
①控訴人の研修の内容を開示するように求め、
②控訴人が葛飾特別支援学校からいなくなるようにしてほしいと要望し、
③24年9月の宿泊を伴う行事を控訴人に引率させないよう要望し、
④Nの写真を控訴人が撮影することも止めてほしいと要求し、
教育委員会に相談に行く旨を伝えるなどした。
後藤博判決書<5p>2行目から
こうした被控訴人の要求、要望は、口頭や手紙、電話で頻繁に行われた。
これをうけて、管理職らによる控訴人の授業観察が行われるようになり、控訴人は、毎日の活動報告や研修結果の報告を求められるようになった。
また、被控訴人は、Nの通知表に控訴人の名前を記載しないように管理職らに要望した。
さらに、被控訴人は、予告なく葛飾特別支援学校を訪れ、教室の外から控訴人の授業を観察し、気になる点を見つけては校長室へ報告しに行くことを繰り返した。
サ 被控訴人は、Nのクラスメイトに対し、控訴人の指導方法について、マイナスの印象を与え、同クラスメイトの控訴人に対する態度に悪い影響を与えた。
後藤博判決書<5p>12行目から
(被控訴人の主張)
被控訴人が、控訴人に対し、日々の学校生活や一人通学等の指導の在り方に関する要望を行ったり、指導の参考にしてもらう趣旨で本を手渡したりしたこと、控訴人の行う授業を見学したことがあったこと、一人通学指導についての被控訴人の手紙について返事を書くように要求したこと、管理職に対し、控訴人の研修の内容を開示すること、Nの指導から控訴人を外すこと、Nの通知表に控訴人の名前を掲載しないようにしてほしいこと、控訴人がNの写真をとることをやめてほしいこと等を要望したことは認め、その余は不知ないし否認する。
被控訴人は、Nの健康状態や行動の内容を熟知している保護者の立場から、Nの勉学環境少しでも改善されるようにと考え、Nの担任であった控訴人との綿密なコミュニュケーションを希望し、様々な要望をした。しかしながら、被控訴人の要望を受けて教育や指導の内容に取り入れるかどうかは、葛飾特別支援学校における教育や指導を責務とする教職員が最終的に決定することであり、被控訴人が要望した行為が、控訴人に対する関係で不法行為を構成することはあり得ない。
なお、被控訴人が、Nのクラスメイトに対し、被控訴人の指導方法についてマイナスの印象を与えた事実はない・
後藤博判決書<6p>4行目から
(2)控訴人の損害(争点2)
(控訴人の主張)
控訴人は、被控訴人の行為により、平成24年6月上旬以降、慢性的に下痢が続くようになり、睡眠障害にも悩まされるようになった。そして、体調を崩したことにより、24年9月3日から24年9月28日まで病休を取得せざるを得なくなり、その後も平成25年3月31日の定年退職まで限定した勤務しか行えない状態が続いた。
控訴人の行為による精神的苦痛に対する慰謝料としては、200万円を下ることはない。
(被控訴人の主張)
控訴人の主張は争う。
後藤博判決書<6p>15行目から
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
2 争点1 (不法行為の成否)について
(1)前記前提事実によれば、控訴人は、葛飾特別支援学校の教諭であったところ、平成24年4月に同校に入学してきたNの担任としてNの指導に関わるようになったこと、Nは重度の知的障害を有している生徒であったことが認められる。
特別支援学校は、一定の障害を有する障害者に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し、自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする学校であり、特別支援学校である葛飾特別支援学校の教諭であった控訴人は、その職務として、上記の目的を実現するために、校長の監督のもと同校の生徒に対する教育をつかさどる立ち番あったものである(学校教育法72条、82条、37条1項、11甲参照)。
後藤博判決書<7p>4行目から
(2) そして、親は、子供に対する自然的関係により、子供の将来に対して最も深い関心を持ち、かつ、配慮をすべき立場にあるから、子供の教育の内容及び方法につき深い関心を抱き、意見を述べることは極めて自然なことというべきであり、ことに、特別支援学校は、上記のとおり障害者の自立を図るために必要な知識技能を授けるという目的を有する学校であり、また、国及び地方公共団体は、障害者の教育に関して、保護者に十分な情報の提供を行うとともに、可能な限り保護者の意向を尊重しなければならないとされていること(障害者基本法16条2項)をも併せて考慮するならば、東京都が設置運営している特別支援学校において、教諭の実施ずる教育の内容及び方法に関し、生徒の親が当該教諭や校長に対して情報の提供を求め、あるいは自ら情報収集を行い、親としての意見や要望を述べることは、当然おこととして予定されているというべきである。
後藤博判決書<7p>15行目から
したがって、被控訴人の行為について、親としての情報収集や要望として社会的に相当と認められる範囲を逸脱し、教諭である控訴人への人格攻撃に及び、又はその名誉を毀損するなど、控訴人自身の権利利益を害するものでない限り、控訴人との関係で不法行為を構成することはないと解される。
後藤博判決書<7p>20行目から
(3)被控訴人が、控訴人に対し、Nに関する日々の学校生活や一人通学等の指導の在り方に関する要望を行ったり、指導の参考にしてもらう趣旨で本を手渡したりしたこと、被控訴人が控訴人の授業を見学したことがあったこと、一人通学についての被控訴人の手紙に対して返事を書くように要求したこと、被控訴人が、管理職らに対し、控訴人の研修の内容を開示すること、Nの通知表に控訴人の名前を掲載しないようにしてほしいこと、控訴人がNの写真をとることを止めてほしいことを要望したことについては、当事者間に争いがなく、また、証拠(甲12、甲13、乙1、控訴人本人)によれば、被控訴人が管理職らに対して要望等を行ったことを受けて、管理職らは、控訴人の意に反してNに対する一人通学指導を開始するように指示を行い、控訴人の授業観察が行うようになったことが認められる。
後藤博判決書<8p>6行目から
しかしながら、上記の被控訴人の行為は、やや行き過ぎの面がなくはなく、そのため、控訴人が特別支援学校の教諭として職務を行うことについて一定の制約を課す結果となったり、控訴人が不快感を覚えることになったりしたものであるとしても、重度の知的障害を抱える子の親が特別支援学校に対して行う情報収集や要望として社会的に相当と認める範囲を逸脱したものとまで評価することはできないし、また、控訴人の人格権を害するなど、控訴人自身の権利権益を害するものであったともみとめられない。
さらに、控訴人は、上記以外の被控訴人の行為についても、行使任意対する不法行為を構成すると主張するけれども、重度の知的障害を抱える子の親が特別支援学校に対して行う情報収集や要望として社会的に相当と認められる範囲を逸脱したものとも、控訴人自身の権利権益を害するものであったとも認められない。
(4)そうすると、控訴人の不法行為の主張には理由がないことに帰するのであって、その余の点に付き判断するまでもなく、控訴人の本件請求は理由がない。
3 結論
よって、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官 後藤博
裁判官 小川雅敏
裁判官 大須賀寛之
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